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エコシステム論と戦略グループ論の接点の探索

~コンタクトレンズ・眼鏡業界の歴史的変遷を通じた研究~ 相川 寛子(早稲田大学大学院経営管理研究科)
根来 龍之(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 / IT戦略研究所所長)
宮元 万菜美(開志専門職大学教授)

様々な技術発展による変化の激しい時代を迎え、ビジネスの世界においても、ある特定の企業が単独で価値を創出することが難しくなっており、産業を超えた企業間の協働や競争が注視されている。そのような中で、エコシステム論はある部分に生じる技術の変化がサプライ構造の中でプレイヤーの役割関係を通じてどう普及するかを論じるものであり、産業を超えた企業間の協働や競争に着眼しているという点において注目されている理論である。しかしながら、エコシステム論の研究はわかりづらいと評されており、その一因として、事例分析や統計的検証の少なさが挙げられている。「エコシステム論構造的パースペクティブ」では、特に事例研究や実証研究が不足している状態にある。「エコシステム論構造的パースペクティブ」は、サプライ構造の全体(エコシステム)の前提としてエコシステムが提供する「価値提案」の変化を堰堤としている。一方、経営戦略論の歴史においては、多くの理論が市場における「価値提案」に着目してきた。本研究では、そのうちの一つである「戦略グループ論」をとりあげ、「エコシステム論構造的パースペクティブ」との関係を探索する。
事例研究の対象はコンタクトレンズ業界と眼鏡業界とし、エコシステムおよび戦略グループのフレームワークを用いて分析を行った。この二つの業界は、視力を補うという同様の商品価値の提供を主な目的としており、市場再編においても歴史的重なりがあるが、産業構造の変化において異なる経験をしている。コンタクトレンズ業界がキャストモールドでの使い捨てコンタクトレンズの製造という革新的な技術変化による破壊的な産業構造の変化を経験したのに対して、眼鏡業界では漸進的な技術改良によって発展しながらも、SPA方式という新しいビジネスモデルが大きく取引構造の変化させたことによる、産業構造の変化を経験している。
分析の結果、エコシステム論と戦略グループ論の関係について5つの仮説を抽出することができた。①エコシステム間の競争は常に継続している、②エコシステムが変化すると必ず戦略グループの構成が変化する、③エコシステムが変化しない場合でも戦略グループが変化することがある、④エコシステムの変化がはじまると有力企業のグループ間移動が起きる、⑤エコシステムの数に対して戦略グループの数は同じもしくは多くなる。
本研究の限界として、抽出した仮説はコンタクトレンズ業界および眼鏡業界の産業特性に依拠している可能性があること、また仮説は筆者が公開資料や関係者へのヒアリングから得た内容を総合的にまとめ分析した結果によって抽出したものであり、主観性が排除しきれていない可能性がある。今後、抽出した仮説の確度を検証するためにも、別の産業を対象としたさらなる事例研究が必要であると考える。併せて、今回見出したエコシステム論と戦略グループ論の接点を、実務的示唆へとつなげることを今後の課題としたい。

キーワード

エコシステム、構造的パースペクティブ、戦略グループ論、コンタクトレンズ業界

掲載

2023年3月掲載

PDFファイル

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