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医療情報プラットフォームの比較事例分析

~マルチホーミングが与える影響~ 柳内 嘉在(早稲田大学大学院経営管理研究科)
根来 龍之(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 / IT戦略研究所所長)

近年、医療情報提供プラットフォーム(以下、医療情報PF)を通じた医薬品の情報提供活動が盛んに行われている。国内には複数の医療情報PFが存在するが、エムスリー株式会社が運営するm3.comは、医師の約9割が登録する、一人勝ち(Winner takes all、以下、WTA)を形成した巨大な医療情報PFである。一方、後発企業である株式会社ケアネットが運営するCareNetやメドピア株式会社が運営するMedPeerにおいても、WTAを形成したm3.comの存在下で、医師の登録数を徐々に増加させ、収益も増加傾向にある。後発の医療情報PFが医師の登録増と収益増を獲得できたのはなぜか、それを明らかとすることが本研究の目的である。
本研究ではWTAの攪乱要因の1つであるマルチホーミングに着目する。本研究に先立ち、医療情報PFのユーザーである医師と製薬企業のマルチホーミングの状況を調査した。医療情報PFを利用している577人の医師にアンケートを行った所、7割を超える医師がマルチホーミングをしている実態が確認された。また、8社の製薬企業の営業担当者にインタビューした所、製薬企業側も医療情報PFをマルチホーミングしていることが確認された。そこで、医師及び製薬企業が共にマルチホーミングしていることを前提に、①医師はなぜ、マルチホーミングを行うのか。②製薬企業はなぜ、マルチホーミングを行うのか。③後発医療情報PFの戦略。④外部環境の影響について。それぞれリサーチクエッションをたて、事例研究を行った。
本研究の結果より、7割を超える医師が複数の医療情報PFに週に1回以上利用している実態が明らかとなった。理由として、医師には情報に関する多様なニーズがあり、1つの医療情報PFだけでは満足する情報が得られず、複数の医療情報PFを利用し、情報を補完していることが確認された。更に、各医療情報PFが医師に付与するポイントも、マルチホーミングを促す1つの要因であることが示唆された。また、製薬企業側では、m3.comがWTAを形成したことでm3.comの利用価格が高くなり、代替できるサードパーティーのニーズがあった。その状況下、医療情報PF毎に情報提供しやすい医師の属性がインパクトトラックにより客観的に示されたことで、製薬企業がプロモーションをしたい領域(医師)に応じて、医療情報PFを使い分けることが可能となり、マルチホーミングに繋がったことが示唆された。後発医療情報PFのCareNetとMedPeerの戦略としては、m3.comとは異なるサービスに注力し、m3.comが追随できないようなサービスへと成長。医療情報PF間で差異化が行われ、結果的に医師側のマルチホーミングが促されたと考えられた。更に、政府による規制変更による影響が2010年以降より認められ、製薬企業が医療情報PFを利用した効率的な情報提供活動を採用するようになり、医療情報PF全体の利用が促進され、市場が成長。この結果、WTAを形成したm3.comのみが利用されるのではなく、後発医療情報PFの利用も促進されたと考えられた。

キーワード

医療情報提供、プラットフォーム、マルチホーミング

掲載

2023年3月掲載

PDFファイル

PDF(9.8 MB)

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