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投資一任サービス業界の業績決定要因の研究

~ロボアドバイザー機能が与えた影響~ 下山 貴史(早稲田大学大学院経営管理研究科)
根来 龍之(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 / IT戦略研究所所長)

2022年3月末時点で日本における投資一任サービスの受託件数は約135万件、運用残高は約13兆円に達している。これは2016年3月末時点と比較して前者が約2.8倍、後者は約2.4倍の水準である。この間、投資一任サービスを提供する全ての投資運用業者が一様に業績を伸ばしたのではなく、一部の新興企業が急激に業績を伸ばしていた。
この背景には、投資運用業者によるロボアドバイザー機能に起因する「チャネルのデジタル化」と「バリューチェーン(VC)の分離」が考えられる。具体的には、2016年2月頃からVCの全工程をシステム上で行う「投資運用業者によるロボアドバイザー・サービス」が普及している。また、2016年11月頃から投資運用業者が外部の口座管理機関に対する「バックヤード・サービス」として投資運用業務を行い、VCにおいて投資運用業者や口座管理機関以外の第三者が仲介業務を行うケースが登場している。
本研究の目的は、「日本において投資一任サービスを提供する投資運用業者を対象として、各社の業績に影響を与える要因を分析すること」であり、そのために定量研究と事例研究の両方を行っている。定量研究の目的は、「投資運用業者によるロボアドバイザー・サービス及びバックヤード・サービスへの対応が、各社の投資運用の受託件数の増加数に与える影響を分析すること」である。定量研究の仮説として「投資運用の受託件数の増加数に対して、投資運用業者によるロボアドバイザー・サービス及びバックヤード・サービスへの対応は、ともに正の影響を与える」を設定している。事例研究の目的は、「ウェルスナビとお金のデザインの比較を通じて、両社の違いに影響を与えた要因を分析すること」である。両社とも2016年に「投資運用業者によるロボアドバイザー・サービス」をリリースしているが、2021年末時点でウェルスナビが受託件数でも運用残高でもお金のデザインを大きく上回っている。
定量研究の結果、ロボアドバイザー・サービスとバックヤード・サービスの両方に対応しているか、片方だけなのかということを調整変数とすることによって、仮説が支持された。平均値の差の検定により縦断的な変化を分析した結果、サンプル期間中に各対応を導入した4社のうち3社は導入直後に被説明変数が他社よりも大きく増加していた。また、事例研究の結果から以下2つの仮説を導出した。
・仮説1:初期段階において、ウェルスナビはお金のデザインと比較して技術的な優位性があり、ユーザーである投資家から高く評価されたことが両社のパフォーマンスの差の一要因となった。
・仮説2:初期段階における両社の提携パートナーのタイプと提携スピードの違いが、両社のパフォーマンスの差に影響を与えた。
以上より、日本において投資一任サービスを提供する投資運用業者の業績に影響を与える要因として、ロボアドバイザー効果、バックヤード効果、これらの導入効果が挙げられる。また、ロボアドバイザー効果をより強化する要素として、サービス提供の初期段階における技術的な優位性と、提携ビジネスの初期段階における提携戦略(提携パートナーのタイプ、提携スピード)が考えられる。

キーワード

投資一任サービス、デジタル化、デコンストラクション、重回帰分析、提携戦略

掲載

2023年3月掲載

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