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ネットスーパーのビジネスモデルと撤退要因に関する研究

~新興市場における参入と撤退のメカニズム~ 瀧本 辰作(早稲田大学大学院経営管理研究科)
根来 龍之(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 / IT戦略研究所所長)

 ネットスーパーという生鮮食品を取り扱い、ECサイトから受注し、配達を行う業態は、企業の参入と撤退が20年以上繰り返されており、未だにビジネスモデルが確立されていない。本研究では、「企業がネットスーパー事業にどのような理由とどのようなビジネスモデルで参入し、どのような要因が撤退を促すのか」を明らかにする。日本における1999年から2022年に至るネットスーパーが立ち上げられた開始から終了までの期間を調査し、ビジネスモデルを分類し、参入時期を黎明期、発展期、停滞期、コロナ後に分け、アーカイバルデータを作成した。①密度依存理論、②ビジネスモデル、③多角化の性質の3つの着眼点に基づき仮説を構築し、統計分析を行った。
 密度依存理論は、Hannan、Freeman、Carollが築いた組織エコロジー理論において、特定企業の個体群における企業密度と企業の死亡確率・誕生確率の関係を分析した理論である。密度依存理論はレジティマシー(正当性)効果とデンシティ(密度)効果の2つのメカニズムからなる。本研究では、「日本におけるBtoC-EC化率が高まっていく」ことは、ネットビジネスとしてのネットスーパーのレジティマシーの代理指標とすることができると考え、[H1a]黎明期・発展期(1999年~2011年)においては、EC化率トレンド(前年比)が高まると、参入率に正の影響を与えるが、停滞期・コロナ後(2012年~2022年)においては、EC化率トレンド(前年比)は参入率に影響しなくなり、[H1b]停滞期・コロナ後(2012年~2022年)に参入したネットスーパーは、ネットスーパーの存在数が多いほど、事業継続期間が短くなることが有意であることを示した。
また、ネットスーパーのビジネスモデルにおいては、物流面、運営面から分類を行い、[H2a]センター型の方がポータル型より撤退しやすく、[H2b]ポータル型>センター型>店舗型の順に事業継続期間が短いことを示した。
 多角化の性質に着眼した仮説としては、[H3a]新規、あるいは他業界から参入するネットスーパーは、既存事業から多角化して参入するネットスーパーに比べて事業継続期間が短くなることを示し、新たな市場で売上を拡大する機会を追い求める動機をもつ「機会拡大型多角化」に対して、既存商圏を侵食されることを防衛するため(競合の機会を潰すため)に行う「機会穴埋型多角化」が存在すると考え、[H3b]機会拡大型のネットスーパーは機会穴埋型のネットスーパーに比べて事業継続期間が短くなることを示した。
 今後、ネットスーパーへの参入・拡大を検討する企業や、リアル店舗を保有し、ECを利用したビジネスの多角化を目指す小売企業のための示唆として、ECトレンドの高まりを参考指標とせず、収益モデルと競争の激化を参入前に考慮すること、それぞれのビジネスモデルで参入する際には撤退戦略を予め計画しておくこと、拡大戦略をとる際には密度の経済性をいかに維持するかを十分に検討することが重要である。

キーワード

ネットスーパー、密度依存理論、ビジネスモデル、多角化戦略、EC化、参入と撤退

掲載

2023年3月掲載

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