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両利きの経営を行う既存企業のデジタル化対応の困難性

~社員の環境認識問題と意識のバラツキ問題~ 米山 敬太(早稲田大学大学院経営管理研究科)
根来 龍之(早稲田大学大学院経営管理研究科教授/IT戦略研究所所長)

要旨

本研究は、広告業界のデジタル化への対応をめぐる意識調査データを基に、デジタル化以前に力を持っていた既存企業のデジタル化対応の困難性について論じる。本研究では、当該企業が、従来事業とデジタル化による新規事業の両方を行う「両利きの経営」を行っていることを前提としている。
広告業界のデジタル・メディア化が急速に進行している中で、既存企業である総合広告会社の国内事業の売上高はテレビ広告中心となっており、新興企業であるネット広告会社のデジタル広告事業の成長の勢いに及ばない。本稿では、広告会社のデジタル化への対応に焦点を当て、デジタル化への対応の困難性を、「社員の環境認識や意識のバラツキ問題」としてとらえ、アンケート調査によってその内容を具体的に明らかにする。
Christensen(1997)は、既存企業が新技術に対して、いかに対応するのが難しいことを指摘している。根来(2019)は、Christensenを踏まえ、既存大企業が破壊的イノベーションへの対応において宿命的に持つ制約を整理している。具体的には、既存製品と既存資源を持つがゆえの(1)「戦略選択の制約」と既存事業を持つ大企業として(2)「組織の重さ問題」の2つの大きな制約があるとしている。
本研究での環境認識問題は、Christensenと根来の主張の実証という側面があり、ネット広告会社と既存総合広告会社間、総合広告会社の既存部門とデジタル部門間の社員の意識の乖離を平均値の違いとしてとらえる。意識のバラツキ問題は、それぞれの企業と部門間の社員の意識のバラツキを分散で測定することで捉える。後者の「社員の意識のバラツキ問題が既存企業の変革を難しくするのではないか」という着眼が、本研究の独自の特徴と言える。
本研究の具体的調査・分析項目は、以下の3点である。(1) 「既存企業である総合広告会社と新興企業であるネット広告会社の意識の乖離差」と「総合広告会社の社内の意識のバラツキ」を測ることで、変革制約の問題項目を分析する。(2)「総合広告会社の既存部門とデジタル部門の意識の乖離差」と「総合広告会社の既存部門とデジタル部門の社内の意識のバラツキ」を測ることで、両利きの経営問題項目を分析する。(3)「変革制約の問題項目」と「両利きの経営問題項目」に共通する項目を明らかにすることで、デジタル化対応の困難性に最もつながるであろう制約項目を分析する。

キーワード

デジタル化、両利きの経営、既存企業の対応戦略、イノベーションのジレンマ

掲載

2019年3月掲載

PDFファイル

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